index

淀川から十二階のところまで歩いて(まだ十二階がとり片づけられていなかった)そこで右左りに、小かめとは別れたのだが、大柄の小かめと作業員が寄添って歩きながら話をしているのを、うしろからみているとなにか兄と妹の親しさといったものにみえていて似合だと思った。作業員が僕を紹介すると、「へえ、これがいい男?」といって僕の顔をみては、「へえ、」をばかり繰返していた。職人の名も言っていたから、作業員と職人がなにかつる助に冗談を言っていたことがあるのだろう。つる助のほうはいい男を美男と考えこんでたとみえるのだが、作業員のほうはつる助にただ「うむ——」と言ってるだけであった。小かめに別れてもまだ日は暮れのこり、人の別れというものをみていていささか感慨にしずんでいると、作業員は、「あの爪を見たか?」と言った。磨きのかかった冷たい黒色の魅力——「爪いろ?」「見た、」と僕は答えた。すると作業員はたちまち能弁に小かめが母親三代の芸妓であること、それによる気質、顔つき、皮膚のいろなどをいって、小かめなどは江戸の名残りを伝えた最も芸者らしい芸者だとたくしーを拾う間言っていた。 トップページへ